IoT-CPFIoT支援基盤の研究内容
研究の背景と狙い
IoTマシン向け通信サービス,Low Power Wide Area Network (LPWAN) が実用化されました.LPWANにはSigfoxやLoRaWAN, NB-IoTなど様々な種類があります.いずれもLTEのような広帯域通信はできませんが,例えばSigfoxの場合,1日に送信可能なデータ量を最大で12Byte×140回に割り切ることで,大口のユーザーの場合,年間100円/端末1台程度の通信費用を実現しています.
LPWANの登場により,今後様々なIoTサービスの実用化が期待されます.例えば,センシングデータのクラウドへの通知などであれば,LTEや5GではなくLPWANで十分です.河川の氾濫,道路の陥没,建物・橋,斜面の崩落などの監視や,街角カメラによる見守りなど,様々なIoTサービスにより,安心安全な市民生活の充実が期待されています.
ただし,LPWANは通信速度が極めて低いため,IoTマシンのログデータファイルの回収や,IoTマシンの機能追加のためのファイル配信には適用できず,保守者の派遣が必要になります.LPWANの代わりに通信速度が高速なLTE/5Gを適用したとしても,IoTマシンの正常確認のための外観検査や周辺環境の確認が必要になると,やはり,保守者の派遣が必要になります.LPWANを使用することで定常通信のための通信費用を100円/年に抑えられても,1回の保守者の派遣で数1,000円〜1万円程度の追加費用が必要になります.これら遠隔保守費用を抑えないとIoTサービスのビジネスモデルが破綻しかねません.
そこで,小川研では,IoTサービスの受益者でもある地域市民の皆様にIoTマシン遠隔保守の支援を頂くことで,様々なIoTサービスの運用費用を削減できる「IoT支援基盤」(IoT Human Machine Cooperative Platform)
の開発を進めています[1][2].
IoT支援基盤の概要
IoT支援基盤は,インターネットに設置する「支援制御サーバ」と,地域市民の皆様に無料で配布する「支援アプリ」で構成します(上部図参照).IoTマシンとクラウド間でのファイル転送や,IoTマシンの外観確認などの要望が,IoTサービス提供者(基盤の顧客)から支援制御サーバに届くと,支援アプリ画面のMapに,そのIoTマシンの位置と要望された支援内容を表示します.市民の皆様が支援を実施すると,顧客に代行して基盤が支援者に報酬を支払ます.
開発状況
類似のサービスとして,巡回ガス検針サービスなどがありました.巡回ガス検針では専門の保守者が無線ターミナルを持ってガス使用者の自宅近辺を巡回し,ガス使用量のデータを無線で集めて廻ります.無線ターミナルとガスメータは予め設定された共有秘密情報により相互認証を行ってから無線接続を実施します.このため任意のマシンからのファイル回収や任意のマシンへのファイル配信には拡張出来ない問題がありました.
小川研では,相互認証に必要な秘密情報を,支援制御サーバが仲介して端末(スマートフォン)に配布することで,事前には信頼関係のないIoTマシンと端末間を安全に接続できる技術を発明し,権利化するとともに国際会議で発表しています[1][2].既存の802.1Xのような認証サーバ方式を適用すると認証データ転送のためLPWANに対するDoS攻撃に使われる可能性がありますが,提案技術ではIoTマシンと端末間の相互認証時にIoTマシンと認証サーバ間でメッセージの交換が不要でありLPWANに対するDoS攻撃手段になりません.また端末に配布する秘密情報は1回のファイル転送のみで有効なため,漏洩しても問題がありません.
小川研はアーベルソフト(株)社様のご協力を頂き,IoTマシン支援基盤の基本機能についてプロトタイプを開発し,イノベーション・ジャパン2019などで発表しています.
2022年度からは,旅行者や目が不自由な方などの支援を求める方と,支援可能な方が,安心・安全に繋ぎ会える基盤として拡張を検討中です.
本基盤を活用するIoTサービスの例
(1)AIカメラ
IoTマシン支援基盤を活用するIoTサービスの例として,道沿いや公園の入口などに設置し交通量の測定や異常検出などを行う「AIカメラ」の開発も進めています(NbECのページ参照).本基盤の活用により,異常検出時の画像のクラウドへの回収(例:公園の時間外利用など),AIカメラの機能追加,AIカメラ筐体の画像撮影などが遠隔から可能になります.
(2)加速度計による公共建築物の崩落予防
東京電機大学新津研究室では,加速度計を橋やビルなど建築物に設置し,データをクラウドに回収して崩落などの予防保全を可能とする技術の研究を進めています.IoTマシン支援基盤と組み合わせることで,専門家を派遣せずに地域市民の皆様のご支援により,データの回収や,機能追加が可能となると期待しています.
トライアル
(1)2019年11月
アーベルソフト(株)社様と協力し,地域の小学生に参加いただき千住キャンパスで実証実験を実施しました.
(2)2019年12月
アーベルソフト(株)社様と協力し,東京電機大学の学生に参加いただき,鳩山キャンパスで実証実験を実施しました.
(3)今後の予定
コロナ感染防止のため,トライアル実施を自粛中ですが,今後再開を計画中です.
参考文献
- Takeshi Ogawa, Taichi Yoshimura, and Noriharu Miyaho, "Cloud Control DTN Utilizing General User' Smartphones for Narrowband Edge Computing," IEEE World Forum on Internet of Things 2018, pp. 19-24, Feb. 2018.
- 小川猛志,"[依頼講演]LPWANとスマートフォンを活用したマシン支援基盤 ~ 研究開発状況のご紹介 ~," 信学技報, vol. 119, no. 107, NS2019-73, pp. 151-152, 2019年7月.